まずはこの曲の魅力を紹介
クラシック音楽というと「長くて難しそう」「途中で眠くなる」というイメージがあるかもしれません。
ですが、実はたった2分ほどで耳に飛び込んできて、一気にテンションを上げてくれる曲もあります。
今回紹介するのは、リムスキー=コルサコフ作曲の《熊蜂の飛行》。
その名の通り、熊蜂が空をブンブンと飛び回る様子を音楽で描いた、超高速の名曲です。
クラシック初心者でも「えっ、こんな曲もクラシックなの?」と驚くこと間違いなし。短く、わかりやすく、そして聴き終えたあと思わず笑ってしまうような疾走感があります。
なぜこの曲を紹介するのか
→ 初心者でもすぐ楽しめて、クラシックの敷居をぐっと下げてくれる一曲だから。音楽の楽しさをシンプルに体感できる名品です。
聴くとどんな気分になれるのか
→ 一瞬で目が覚めるようなスピード感。頭の中を蜂が飛び回る感覚に包まれ、サクッと気分転換したいときにもぴったりです。
作曲者リムスキー=コルサコフについて
この曲を作ったのはロシアの作曲家ニコライ・リムスキー=コルサコフ。
もともとロシア帝国海軍の士官という異色のキャリアを持ち、世界各地の音楽文化に触れながら独自の作風を育てていきました。
《熊蜂の飛行》が作られたのは、彼がオペラ作曲に力を入れていた晩年の1899〜1900年。民話や幻想的な物語に音楽で命を吹き込むことを得意とした彼は、民話の世界をカラフルなオーケストレーションで描くことに情熱を注いでいました。
曲が生まれた背景と≪サルタン皇帝の物語≫について
《熊蜂の飛行》は、オペラ≪サルタン皇帝の物語≫のために書かれた間奏曲です。
このオペラはロシアの詩人プーシキンの童話をもとにしたもので、次のような物語が描かれています。
≪サルタン皇帝の物語≫のあらすじ
サルタン皇帝が3姉妹の中から末娘を妻に選び、他の姉妹たちは嫉妬心から皇帝と妃を引き離してしまいます。妃は幼い王子グヴィドを出産しますが、母子ともに島流しにされてしまうのです。
成長した王子は、魔法の力を得て様々な冒険を繰り広げ、やがて熊蜂に姿を変えて父である皇帝のもとへ飛んで行く、という場面があります。
《熊蜂の飛行》はこの王子が蜂の姿になり、島から父のもとへ一目散に飛んでいくシーンを描いた音楽です。
当時のロシア音楽界では、民話や幻想物語をオーケストラの音色で鮮やかに描くことが流行しており、リムスキーもその中心的存在。この曲はその代表例のひとつと言えるでしょう。
曲の内容と聴きどころ
《熊蜂の飛行》は約1分半〜2分ほどの短い曲ですが、超絶技巧とスピード感に満ちた内容です。
聴きどころ
- 冒頭から超高速の音階が駆け上がり、蜂が飛び立つ瞬間を描写
- 中盤では木管楽器が細かいパッセージを刻み、蜂の細やかな動きを再現
- 終盤になるとさらにテンポアップし、クライマックスで一気に駆け抜ける爽快さ
特にヴァイオリン、フルート、クラリネットの細かな音の動きが、蜂の素早い動きや飛行の描写を巧みに表現しています。
初演とその後の評価
1900年、オペラ≪サルタン皇帝の物語≫の初演でこの曲は披露されました。
本来はオペラの中のワンシーンのための間奏曲でしたが、その圧倒的なインパクトと演奏効果の高さから、すぐに独立して演奏されるようになり、人気曲に。
のちにピアノ版、ヴァイオリン版、吹奏楽編曲なども登場し、クラシックの小品の中でも特に有名な技巧曲のひとつとして定着。今でもコンクールの定番曲やYouTubeの超絶技巧動画などでも多く取り上げられています。
名盤とおすすめ動画
初心者向けおすすめ音源
- カラヤン指揮・ベルリン・フィル版
音の厚みとスピード感が抜群。オーケストラの迫力を存分に味わえる名演。 - ナイジェル・ケネディ(ヴァイオリン版)
遊び心たっぷり、クラシックに構えず聴ける爆速ヴァイオリン演奏。
おすすめ動画
- 爆速ピアノ版《熊蜂の飛行》
- ナイジェル・ケネディの超絶ヴァイオリン版
まとめとおすすめの聴き方
《熊蜂の飛行》は、クラシック音楽の楽しさをわずか2分足らずで体感できる、スピードと技巧の名品。
こんなときに聴くのがおすすめ
- 朝の目覚まし代わりに
- 気分転換したいとき
- クラシック初心者の友達に「こんな曲もあるよ」と紹介したいとき
この曲を聴いたら次はこれ!
- 《スペイン奇想曲》
リムスキーのカラフルな音使いと民族色豊かなオーケストレーションを味わえる名曲。 - 《シェエラザード》
幻想物語を音楽で描き出した、リムスキー=コルサコフの代表作。長めの曲も楽しめるようになったらぜひ。
おわりに
クラシック音楽は長くて難しいだけじゃない。短くても、驚きと楽しさに満ちた作品がたくさんあります。
《熊蜂の飛行》をきっかけに、クラシックの世界をもっと気軽に楽しんでみてください。