リムスキー=コルサコフ《金鶏》|~幻想と風刺のロシア音楽〜

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クラシック音楽と聞くと、どうしても堅苦しくて難しそう…と思う方も多いかもしれません。けれど実は、物語性に富んだ作品や異国の香り漂う音楽がたくさんあって、ちょっとした非日常を味わえる“音の物語”の宝庫なんです。

このページでは、そんなクラシックの魅力を「物語」「背景」「聴きどころ」に分けてわかりやすく紹介。今回はロシアの作曲家リムスキー=コルサコフが晩年に遺した、幻想と風刺に満ちたオペラ《金鶏(きんどり)》を、音楽の魅力とともに紐解いていきます。

クラシック初心者の方も、音楽が好きな方も、気軽に楽しめるよう構成しているので、ぜひ肩の力を抜いて、音楽の異世界旅行へ出かけましょう。

はじめに 〜《金鶏》ってどんな作品?〜

皆さん、幻想的でミステリアスな音楽に浸りたい気分の日ってありませんか?クラシック音楽というと堅苦しいイメージを持たれがちですが、実はまるで絵本の中の魔法の国に迷い込んだような、心地よい非日常の世界を楽しめる作品もたくさんあります。

今回ご紹介するのは、ロシアの巨匠リムスキー=コルサコフが晩年に書き上げた異色のオペラ《金鶏》。東洋風の異国情緒たっぷりな音楽と、風刺の効いたストーリーがクセになる一作です。

「オペラ」と聞くと「言葉がわからない」「敷居が高い」と敬遠しがちですが、《金鶏》はその世界観のわかりやすさと、色彩豊かなオーケストラが魅力。とくに前奏曲を聴けば、一気に幻想の王国に誘われること間違いなし。

夜寝る前に部屋を少し暗くして、ヘッドフォンで前奏曲を流してみてください。金色の鶏が不思議な声で鳴く砂漠の王国へ、ふわりと心が旅するような気分になれるはずです。

作曲者紹介

リムスキー=コルサコフは、19世紀ロシア音楽界で活躍した作曲家・指揮者であり、特に民族的要素を取り入れた管弦楽法の名手として知られています。「ロシア5人組」の一人として、ムソルグスキーやボロディンらと共に、ロシア独自の音楽を追求してきました。

《金鶏》を作曲したのは1907年、リムスキー=コルサコフが70歳を迎える晩年。この頃の彼は、帝政ロシアの厳しい検閲や弾圧に怒りを募らせ、芸術家としての自由を強く求めていました。1905年の第1次ロシア革命では、学生の抗議運動を擁護し、その結果ペテルブルク音楽院の教授職を追われるという出来事も経験。その失意と反骨精神が、この《金鶏》に込められています。

作品の中で描かれる愚かな皇帝ドドンの姿は、当時の皇帝ニコライ2世を揶揄したものといわれ、権力者の愚行や権力構造の不条理を皮肉る、社会批判の意図が色濃く現れているのです。

曲が生まれた背景

《金鶏》の原作は、ロシアの詩人アレクサンドル・プーシキンの童話詩『金の鶏』。しかし、リムスキー=コルサコフは単なる子供向けの物語としてではなく、当時の社会状況を風刺する痛烈な劇として脚色しました。

20世紀初頭のロシアは、貴族社会と庶民の間の格差が拡大し、1905年には第1次ロシア革命が勃発。民衆は自由と改革を求めたものの、政府の弾圧により鎮圧され、検閲も一層強化されていました。

そんな中、芸術家たちは直接的な政治批判ができない代わりに、寓話や民話、異国の物語を借りて風刺を行う手法を取り始めます。リムスキー=コルサコフもその一人。《金鶏》では、愚かな皇帝ドドンとその取り巻き、賢い占星術師、美しきシェマハの女王、そして神秘の金の鶏を配し、権力者の愚行とその末路を描いています。

しかし、その意図は政府に看破され、作品は発禁処分に。作曲者自身も検閲との闘いに疲弊し、翌年1908年に死去するという運命を辿りました。

各楽章の内容&聴きどころ

《金鶏》は全3幕(+序奏)からなるオペラですが、各場面ごとに異国的でカラフルな音楽が展開し、ストーリーと音の融合を楽しめます。ここでは主要な場面の流れと聴きどころを紹介します。

序奏(前奏曲)

東洋風の旋律を織り交ぜた幻想的なオーケストラ曲。異国の宮廷を思わせるオーボエの旋律、神秘的な弦の響きが印象的。

🎧 聴きどころ

  • オーボエのエキゾチックな主題
  • 弦楽の揺らめくような和声の重なり
  • 金鶏の神秘的な鳴き声を表現したシンバルとピッコロ

■ 第1幕

戦におびえる皇帝ドドンは、国を守る方法を占星術師に相談。不思議な“金の鶏”を授かり、危機を告げるという。

聴きどころ

  • 金鶏のキラキラしたテーマ(ピッコロ&シンバル)
  • 皇帝ドドンのユーモラスな動機
  • 合唱とオーケストラの重厚な対話

第2幕

戦場で美しいシェマハの女王に出会ったドドンは、一目で心を奪われる。女王は妖艶な踊りと歌でドドンを翻弄。

聴きどころ

  • シェマハの女王の艶やかなアリア《月の光の下で》
  • 管弦楽のオリエンタルな装飾音とリズム
  • 弦楽とハープが描く夜の幻想的な場面転換

第3幕

女王に溺れたドドンは国を滅ぼし、占星術師に殺される。金鶏は勝利の歌を鳴き、物語は終わる。

聴きどころ

  • 金鶏の不吉な鳴き声の変化
  • ドドンの悲劇を彩るオーケストラの緊張感
  • ラストの金鶏のテーマ再登場と、神秘的なエンディング

初演・評価の歴史

《金鶏》は1909年、リムスキー=コルサコフの死後にロシア・オペラ座で初演。美術・舞台・音楽の総合芸術として大成功を収め、20世紀初頭のロシア舞台芸術の代表作となりました。

当時の評価

  • 音楽は好評、風刺性に賛否
  • 美術面ではバクスト、ゴロヴィンらが舞台美術を担当し、絢爛豪華な演出で話題に
  • 一部の保守派から「体制批判が過激」との声も

その後、ロシア革命や戦争を経て上演機会は減ったものの、20世紀後半から再評価が進み、世界各地の歌劇場や音楽祭で取り上げられるようになりました。とくに管弦楽組曲版は人気が高く、演奏会でもしばしば取り上げられます。

名盤&おすすめ動画紹介

初心者向け

アンドレ・プレヴィン指揮 / ロンドン交響楽団
管弦楽の色彩感と分かりやすさを両立した名演。音質も良好で、組曲版もおすすめ。

ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー指揮 / ボリショイ劇場
ロシア語の雰囲気を味わいたいならこれ。重厚なオーケストラと土臭さが魅力。

中級者以上向け

ヴァレリー・ゲルギエフ指揮 / マリインスキー劇場
ライヴ感溢れる演奏。テンポの揺れや細かなニュアンスが絶妙で、全曲盤も必聴。

YouTubeおすすめ動画

まとめ&おすすめの聴き方

《金鶏》は、ロシア音楽の異国情緒と風刺劇の面白さ、そしてリムスキー=コルサコフならではの色彩豊かなオーケストレーションが詰まった、まさに“音楽の絵本”。オペラに馴染みがない人でも、前奏曲や組曲版なら気軽に楽しめます。

おすすめの聴き方
夜、部屋の明かりを落としてヘッドフォンで。幻想的な音世界に浸れば、不思議な物語の中に迷い込んだ気分になれます。

次に聴くならこれ!

  • 《シェヘラザード》(同じくリムスキー=コルサコフの異国風管弦楽曲)
  • ドビュッシー《牧神の午後への前奏曲》(幻想的な管弦楽の名品)
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