今回は、学生オーケストラにおすすめの選曲・交響曲(上級編)を紹介します。
前回ご紹介した「学生オケにおすすめの選曲・交響曲(初級編)」、「学生オケにおすすめの選曲・交響曲(中級編)」と続き、今回は上級者向け難易度の交響曲を紹介し成ます。
上級者向けになると技術もさることながら、編成面においてもなかなか団員だけではまかなえないレベルになってきます。
今回も、編成は弦5部、2管編成を基本に、増減を記載します。
では、早速ご紹介していきます。
チャイコフスキー交響曲第6番「悲愴」
編成:±0
難易度:★★★★☆
知名度:★★★★☆
ロシアの作曲家、チャイコフスキーの最後の交響曲です。5番とともに人気の交響曲で、学生オケの冬の定期演奏会で良く取り上げられています。チャイコフスキーらしい美しいメロディーと派手な管楽器の演奏で、難易度も知名度も高い1曲です。
チャイコフスキーの他の交響曲と違う点は、暗く静かに終わりを迎える4楽章です。通常は、トゥッティのフォルテで終わるイメージが強い最終楽章ですが、異例の静けさで終わります。ここが5番と比べると演奏回数や人気で少ない要因だと思われます。
その分、通常出番の多い金管楽器が多用されないので体力的には派手な3楽章で全力を出せますが、やや物足りない終わり方と感じる方も多いでしょう。
演奏自体は、1楽章はファゴットがメロディーから始まり、ppppppを吹いたと思えば、トゥッティでffの後はトランペットの高音、弦楽器や木管楽器は音符が多いので疲れるチャイコフスキーらしい1楽章で幕を閉じます。
2楽章はチェロの美味しいメロディーから始まります。メロディー終盤にある跳躍はチェリストにとっては美味しいだけです。あまりしつこくならないよう弾きましょう。ワルツのような楽章で演奏するにも気持ちのいい楽章です。
3楽章は、最終楽章と見まごう程のテンポと熱量があります。早いスピードで上昇や下降を繰り返し指が回らないと残念ですが、曲として成立しやすいのであまり問題ありません。
4楽章はとても弾きづらいです。冒頭の旋律はヴァイオリンの1stと2ndの音符が交互にメロディーとなるよう楽譜が出来ているので、観客としては1つのメロディーでも、演奏している方は混乱してしまいます。
「悲愴」という副題を音楽でとても上手く表現した素晴らしい作品です。卒業までに1度は弾いてみたい!という団員も多いと思います。
マーラー交響曲第1番「巨人」
編成:倍管、+ハープ
難易度:★★★★★
知名度:★★★☆☆
オーストリアの作曲家、マーラーの交響曲です。ベートーベン交響曲第10番と言われるほどの完成度があり、マーラーの交響曲の中では演奏機会の多い曲です。
とは言っても、やはりマーラーは難しいです。冒頭、ヴァイオリンのフラジオの薄い伴奏に乗って管楽器がポーンとロングトーンで音を鳴らします。開始から3分間はこれが静かに続くので、下手な管楽器パートだったらそれだけでこの曲を台無しにしてしまう位、恐ろしいです。
地獄の管楽セクションが終わるとチェロのメロディーに乗せて明るく盛り上がります。ゆったりとした曲調が徐々にアッチェレしピークを迎えます。
このピーク直前のアッチェレが一番かかる所で弦楽器の早いパッセージがあり、弾ききれないとピークがズレます。しかも、違うテンポで管楽器が上昇音階をならすため、正しく弾いていてもズレた感覚は残ります。
ここまでで約6分ですが、古典やロマン派のセオリーにない楽器の動きに戸惑う、ここがマーラーの難しさだと思います。
1楽章の最後も、無事終われるか心配で、とにかく怖い交響曲です。
2楽章は、チェロとコントラバスの低弦部の伴奏で曲が始まります。1楽章に比べると分かりやすい曲調なのでそれほどですが、弦楽器がコントラバスまではっきり弾ける事と、ホルンがビビらなければ大丈夫です。
1楽章同様、盛り上がる場面でアッチェレするのでむしろ走りすぎないように注意しましょう。
3楽章はとても珍しいコントラバスのソロがあります!コントラバスにしては高音域なので大変ですが、千載一遇のチャンスなので嫌いな人はいないはずです。
コントラバス→ファゴット→チューバと滅多に見られない低音域によるメロディーの受け渡し、最高です。
中盤から終盤は結局オーボエに怪しげな旋律を持って行かれますが、各楽曲のレベルがはっきり分かる楽章です。むしろ、メロディーより伴奏のpがかなり真剣を使う疲れる楽章です。
で、休みなく4楽章に突入ですが、ヴァイオリン弾けないかも知れません。早い、跳躍する、高いと難しさを表現する言葉でしか言い表せません。象徴的な冒頭部なので、ここが弾けるかどうかでこの曲を判断しても良いです。
学生オケだと、個人的な技術だけでなくオケ全体のその時のレベルや人数に大きく左右されるのでなかなか出来るチャンスは少ないですが、名曲ですね。
ドヴォルザーク交響曲第7番
編成:-チューバ
難易度:★★★★★
知名度:★★★☆☆
チェコの作曲家、ドヴォルザークの交響曲です。後期の作品の中では、トランペットが華やかに活躍する第8番、第2楽章が有名な第9番「新世界」と有名で華やかな楽曲があるなか、第7番はかなり骨太の交響曲です。難易度としても、他の2作に比べて群を抜く難しさです。
まず、ヴァイオリンが弾ける事が大前提の曲です。ためにし、一番最後の音符を一発で当てられるなら大丈夫、何度やっても当たらない場合は諦めるべきです。
とにかくヴァイオリンが難しい、その次は弦楽器全体かと思います。低弦部まで細かく弾かせるんですが、金管楽器がいない事が多く、ちゃんと聴かせないとダメです。
選曲にあがった際、ヴァイオリンのOBが「コンマススコアみた?」と聴くくらい、ヴァイオリンは難しいです。先輩たちが練習で、ヴァイオリンやチェロの後ろの方がしょっちゅう落ちていたのを見ていて、トラウマです(笑)
二短調なので、全体の雰囲気は渋く、骨太な交響曲なので一般受けはしにくいかも知れませんが、ぎっしりと中身の詰まったやりがいのある玄人向けな交響曲です。
シューベルト交響曲第9番「ザ・グレート」
編成:-チューバ
難易度:★★★★☆
知名度:★★★☆☆
オーストリアの作曲家、シューベルト最後の交響曲です。
「ザ・グレート」と言う副題に相応しく、重厚で威厳のある交響曲で古典の作品の最高峰だと言えます。
2楽章は主題をオーボエ、フルート、ヴァイオリンが弾きます。チェロが後半第2主題を演奏し、その他の楽器はほぼ伴奏と、とてもシンプルながら美しい楽章です。
3楽章は、3拍子の3拍目にアクセントが来る変わった形式ですが、それが前に進む力になっているようてとてもスピード感のある楽章です。木管とヴァイオリンが主題を弾きながら、この楽章もチェロが第2主題を弾いており、難しくなく美しく目立つメロディーなので、チェロ的にはとても「おいしい」です。
4楽章もリズム感が気持ちよい楽章です。弦楽器はたくさん弾き、歯切れのよいトランペット、木管の和音など、基本的な技術が大事です。個人的な力量に合わせる事を意識したいです。
今回紹介したなかでは、楽譜を見て難しいと感じる事は少ないですが、合奏になるとなんか上手く合わない感じがします。ベートーベンほど形式が固くないのでガチッとはまらず、チャイコフスキーのような派手さがないので勢いで誤魔化せない、ストライクゾーンの狭さが難しさです。
ラフマニノフ交響曲第2番
編成:+バスクラリネット
難易度:★★★★☆
知名度:★★★☆☆
ロシアの作曲家、ラフマニノフの交響曲です。ラフマニノフと言えば、フィギュアスケートの浅田真央選手が演技に使用していた「ピアノ協奏曲第2番」でクラシックのファン以外でも知っている人の多い作曲家です。
劇的で美しいメロディーの曲が多く、比較的現代の作曲家ながら親しみやすい人気の作曲家です。
交響曲第2番はどの楽章も素敵ですが、人気なのは3楽章です。クラリネットの長いソロは、胸を締め付けるような切なさと美しさがあります。約2分間ソロですが、もっと聴いていたいと思う程の魅力があります。
音程が上がっていくのに音量を上げず抑えるところが、こころにグッとくるポイントだと思います。クラリネットが抜きん出て上手な方がいれば聴いてみたいもんです。
弾けるかなと不安になるのは、4楽章の冒頭です。3連符の裏拍で動くような旋律が弾きにくく、跳躍有りのハイスピードで冒頭から落ちそうです。聞こえないと、ただただティンパニがうるさいだけになってしまうので弾けるよう頑張りましょう。
全体的に拍子の頭に音符がなくメロディーのリズムが掴みにくい曲なので、何度も体に叩き込み、周りが落ちても自分は最後まで演奏出来る!と言う技術力が必須の高難易度な交響曲です。
上級編で紹介したなかで一番メロディアスな楽曲なので、メロディーを歌うのが得意なオケにはもってこいです。
ベルリオーズ幻想交響曲
編成:+コルネット、ハープ2、ティンパニ、鐘
難易度:★★★★★
知名度:★★★★☆
フランスの作曲家、ベルリオーズの交響曲です。5楽章からなり、巨大な楽器編成、奇抜なストーリー、特殊な演奏方法など一般的な交響曲とは大きく一線を画しています。しかし、メロディーの美しさ、曲の迫力、全体の雰囲気はとても素晴らしい作品で、発表当初から現在に至るまでも大人気の交響曲です。
各楽章にそれぞれ副題がついており、場面を説明するようなタイトルになっています。
1楽章:夢、情熱、2楽章:舞踏会、3楽章:野の風景、4楽章:断頭台への行進、5楽章:魔女の夜宴の夢。
とは言っても、編成面でティンパニ2台、さらにハープも2台必要となってきます。きっと、自前の団員では補えないと思うので、この曲をやるとなればエキストラは必須です。ただ、エキストラを頼んでもやりたくなる魅力のある楽曲です。
作曲された時の背景を簡単に時系列で紹介します。
①ベルリオーズが見た劇団のスミスソンに一目ぼれする。
②スミスソンへの恋心が、会えない孤独感で憎しみに変わり、募っていく。
③そんな最中、別の女性「モーク」と出会い恋に落ちる。
④モークと婚約関係まで行くが、モーク母によって破局させられ、モークは別の人と結婚する。
⑤モーク母娘とモーク夫を殺害しようと怒る。
⑥そんな最中、スミスソンの再開し、あれよあれよ結婚する。
作曲期間は①~③の間なので、憎しみと喜びが混在している中での作曲だと思われます。これが、⑤までの期間に作られていたら、また違った作品になっていたと推測されます。
「固定観念」と言われる1つのメロディーが様々な場面で形を変えて現れる交響曲で、このメロディーはスミスソンへの恋心と言われています。
いかがでしたでしょうか。上級編を選択できる学生オケになると、編成も大きくなるため選択の幅も増えると思います。選曲の参考になれば幸いです。
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