今回は、「春」にピッタリのクラシック曲を紹介していきます。
春は菜の花や桜など様々な植物が芽吹き、入学や進学、就職など新しい場面での不安もあるけど、光が差してくる明るい出会いの季節です。
気温も高くなってきてなんだかウキウキする楽しい季節の「春」は、クラシックの世界でも多くの名曲を生み出しました。
そんな春に最適なクラシック音楽をセレクトしました。
ピアノ曲、小編成の曲
グリーグ 春に寄す
北欧ノルウェーの作曲家グリーグのピアノ曲です。ピアノ曲集「抒情小曲集」第3集の第6曲になります。
グリーグがデンマーク旅行中にホームシックになり、その際に故郷ノルウェーを思い作曲された曲で、北欧らしいと言うか、透き通ったような和音の音色が美しい1曲です。
ちなみに動画の美しい女性は「アリス・紗良・オット」さんで、父親がドイツ人、母親が日本人のハーフピアニストです。
メンデルスゾーン 無言歌より「春の歌」
メンデルスゾーン作曲の「無言歌集」の中の1曲です。無言歌とは、言葉のない歌の事で、抒情的なメロディーが特徴です。
全48曲ある中でも1番有名な曲で、「春の歌」という表題は曲の冒頭に書いてある発想標語「春の歌のように」から取られています。メンデルスゾーンが自身で名付けたのは5曲と言われています。(「ヴェネツィアの舟歌 第1、第2,第3、デュエット、民謡」)
優雅なメロディーと落ち着いたテンポで人気のこの曲は、テレビCMでもたびたび使われます(養命酒のCMなどで使われていました)。
ベートーベン バイオリンソナタ第5番「春」
ベートーベンが作曲したバイオリンソナタの第5番です。
ベートーベンは10曲のバイオリンソナタを作曲していますが、10曲の中でも1、2位を争う人気のソナタで、「春」という副題はベートーベンの死後に付けられました。第1楽章の冒頭から流れる美しく明るい旋律にピッタリです。
この曲が作曲された同時期に自身初となる交響曲第1番も作曲しており、ピアニストとしてのベートーベンから作曲家としてのベートーベンに変わる第一歩の時期でした。
モーツァルト オーボエ4重奏曲 第1楽章
オーボエ、バイオリン、ビオラ、チェロの4人編成で演奏される四重奏曲です。3つの楽章からなる四重奏曲で、全体を通して15分程度の短めな曲です。
特におすすめは1楽章。冒頭からキラキラしたオーボエ独特の明るく弾むようなメロディーが「春」を感じさせます。モーツァルトらしい軽快で明るいメロディが人気の作品です。
シューベルト ピアノ5重奏曲「ます」第4楽章
CMなどで耳にした人も多い、日本でもお馴染みのメロディーです。川を泳ぐ「ます」の様子をモチーフに作曲された曲です。
実はこの曲、原曲は歌曲なんです。同じ名前の「ます」という曲で、歌詞が付いた歌になっています。歌詞の内容は、ずる賢いやり方でますを吊り上げるさまを歌っています。ドイツ語で歌われると全く分かりませんが、日本語訳を見ると思った以上に「ます」の動きや川の様子が歌われています。
URL:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B1%92_(%E6%AD%8C%E6%9B%B2)
ドイツ語原詩 日本語大意 Die Forelle
In einem Bächlein helle
Da schoß in froher Eil
Die launische Forelle
Vorüber wie ein Pfeil.
Ich stand an dem Gestade
Und sah in süßer Ruh
Des muntern Fischleins Bade
Im klaren Bächlein zu.
Ein Fischer mit der Rute
Wohl an dem Ufer stand,
Und sah’s mit kaltem Blute,
Wie sich das Fischlein wand.
So lang dem Wasser Helle,
So dacht ich, nicht gebricht,
So fängt er die Forelle
Mit seiner Angel nicht.
Doch endlich ward dem Diebe
Die Zeit zu lang. Er macht
Das Bächlein tückisch trübe,
Und eh ich es gedacht,
So zuckte seine Rute,
Das Fischlein zappelt dran,
Und ich mit regem Blute
Sah die Betrog’ne an.鱒
明るく澄んだ川で
元気よく身を翻しながら
気まぐれな鱒が
矢のように泳いでいた。
私は岸辺に立って
澄みきった川の中で
鱒が活発に泳ぐのを
よい気分で見ていた。
釣竿を手にした一人の釣り人が
岸辺に立って
魚の動き回る様子を
冷たく見ていた。
私は思った
川の水が澄みきっている限り、
釣り人の釣り針に
鱒がかかることはないだろう。
ところがその釣り人はとうとう
しびれを切らして卑怯にも
川をかきまわして濁らせた
私が考える暇もなく、
竿が引き込まれ
その先には鱒が暴れていた
そして私は腹を立てながら
罠にはまった鱒を見つめていた
クリスティアン・フリードリヒ・ダニエル・シューバルトによって書かれた詩に、シューベルトが作曲したこの作品。歌曲バージョンの「ます」は3節で構成されていますが、詩は全体で4節あり、カットされた4節目は下のような文章になっています。
URL:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B1%92_(%E6%AD%8C%E6%9B%B2)
ドイツ語原詩 日本語大意 Die ihr am goldenen Quelle
Der sicheren Jugend weilt,
Denkt doch an die Forelle,
Seht ihr Gefahr, so eilt!
Meist fehlt ihr nur aus Mangel
der Klugheit, Mädchen, seht
Verführer mit der Angel!
Sonst blutet ihr zu spät!確かな青春の
黄金の泉のもとにいるあなたがた
鱒のことを考えなさい
危険に出会ったら急ぐのだ!
あなたがたが過ちを犯すのは、えてして、
思慮が足りないためだ。
娘たちよ、見なさい
釣り針を持って誘惑する男達を!
さもないと後悔しますぞ!
それまでの優雅な「ます」の歌詞とは異なり、急に男に気をつけろ!と言われて驚きですね!もともとこの詩はますを女性と見立て、男性(釣り人)には気を付けるよう伝える意味の詩だったのです。あのメロディーの流れにはふさわしくないと感じたのが、シューベルトは4節目をカットしていますが、意味を知ると驚きですよね。
今回紹介する動画は、5重奏バージョンと、歌曲バージョンを載せました。
『ピアノ5重奏「ます」第4楽章』
『歌曲「ます」』
ヴィヴァルディ 「四季」より「春」第1楽章
誰もが一度は聴いた事があるであろう、とても有名な曲です。1つの季節がそれぞれ第一楽章、第二楽章、第三楽章の3つからなった協奏曲です。
正式名称はヴァイオリン協奏曲集『和声と創意の試み』で、ヴィヴァルディ自身は一度も「四季」と言っていないというから驚きです。
しかしながら、聴いた人に春、夏、秋、冬のそれぞれ季節を連想させる曲はどれも素晴らしいです。中でも「春」は入学式・入社式など晴れの舞台で良く使われており、キラキラした雰囲気が新たな旅立ち、桜の季節にピッタリです。
また、作者不明ながら作曲家自身が作ったとも言われているソネット(十四行詩と言われる詩のスタイル)が付けられており、それらも各季節を表す美しい言葉となっています。
第1楽章 アレグロ春がやってきた、小鳥は喜び囀りながら祝っている。小川のせせらぎ、風が優しく撫でる。春を告げる雷が轟音を立て黒い雲が空を覆う、そして嵐は去り小鳥は素晴らしい声で歌う。鳥の声をソロヴァイオリンが高らかにそして華やかにうたいあげる。
URL:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%9B%E5%AD%A3_(%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%AB%E3%83%87%E3%82%A3)
オーケストラ曲
ヨハンシュトラウス2世 「春の声」
ワルツ王と呼ばれ数多くのワルツ作品を世に遺したヨハン・シュトラウス2世の曲です。もともとはソプラノとオーケストラの作品で、今ではオーケストラ用の曲で親しまれています。
ハンガリー滞在中に参加した晩餐会の余興で弾いていたピアノから即興的にこの曲が生まれたといわれており、明るい曲調にはシュトラウス2世自身の3度目の結婚を控えていた幸福感が影響しています。
毎年恒例のウィーンフィルニューイヤーコンサートで必ずと言っていいほど演奏されるこの曲は、自然と人々を明るくする素敵な曲です。
ちなみに、この曲は3拍子の作品でリズムがいわゆる「ズン、チャッ、チャッ」です。普通にリズム通り弾けば「ズン、チャッ、チャッ」がすべて同じ長さになるはずです。
しかし、ワルツの本場、ウィーンを拠点に活動するウィーンフィルハーモニー管弦楽団が演奏すると、1拍目が短く、2拍目が突っ込んで「ズチャッッチャッ」のように聴こえます。これはウィーン独特の文化のようで、言葉の訛りに近いです。
このリズムについての文献がみられるので、リンクを下に貼っておきます。気になる方はご覧になってみてはいかがでしょうか。関東の人が関西弁を真似るような感じと表現されているのは、とても納得の表現です(笑)
一つ目の動画は普通のリズム。二つ目の動画はウィーンフィルの動画を紹介します。
チャイコフスキー 花のワルツ
「花のワルツ」は、ロシアの作曲家チャイコフスキーのバレエ作品「くるみ割り人形」の第2幕第13曲です。とても人気が高く、後にバレエ作品から数曲を編成したバレエ組曲にも入っています。
タイトルに「春」は付きませんが、ホルンの柔らかい響きが春の心地よさを感じさせてくれます。また、フルートの流れるような旋律やハープの音色が美しく、とても人気の楽曲です。
シューマン 交響曲第1番「春」
シューマンが作曲した交響曲です。「春」と呼ばれているのはシューマン自身がつけたとされ、各楽章にもそれぞれ副題がつけられています。
全体を通して春を感じさせる交響曲で、特に第1楽章には「春の始まり」と名付けられていました。
シューマンはこの交響曲を作る1年前にクララと結婚し、人生の「春」を迎えていました。3楽章には「楽しい遊び」、4楽章は「たけなわの春」と幸せ全開の交響曲、是非聴いてみて下さい。
メンデルスゾーン 交響曲第4番「イタリア」第1楽章
タイトルに「春」はついていませんが、曲調が春を感じさせる華やかで明るい響きがピッタリの曲です。
メンデルスゾーンがイタリア旅行中に作曲した作品です。画家としての才能があるメンデルスゾーンはイメージを具現化するのが得意のようで、他の作品に「スコットランド(交響曲第3番)」、「スイス(弦楽のための交響曲第9番)」、「フィンガルの洞窟」など、その地を訪れたインスピレーションから作曲した曲があります。
38歳という若さでこの世を去ってしまったメンデルスゾーンは紛れもない天才です。冒頭部分を聴いてみて下さい。
ベートーベン 交響曲第6番「田園」第2楽章
ベートーベンの作曲した交響曲第6番「田園」の第2楽章を紹介します。
「田園」という副題はベートーベン自身がつけ、各楽章にもそれぞれ副題がつけられており、第2楽章には「小川のほとりの情景」という副題がついています。
2ndバイオリン、ビオラ、チェロ独奏のメロディーが田舎に流れる小川の流れを感じさせます。1stバイオリンがいない分、音域が低く、それが体を包むような暖かみを感じさせてくれます。
ストラヴィンスキー 春の祭典
ロシアの作曲家ストラヴィンスキー作曲のバレエ音楽です。通称「ハルサイ」、クラシック界では言わずと知れた問題作です。これまでに紹介した作品に比べ近代に作曲されおり、「現代音楽」と言われるジャンルの曲です。
初演された際、あまりの衝撃的な音楽に賞賛する客と批判する客同士で罵り合いや殴り合いの喧嘩が起きるほどと言われています。現代音楽は総じて耳なじみのあるメロディーがなく不協和音を多用しているため、事前にそういう音楽と思って聴かないと批判する気持ちも分かります。
私自身、「春の祭典」は演奏したことがありませんが、同作曲家の作品「火の鳥」は演奏したことがあります。演奏する前にCDで聞いたときは「春の祭典」のように「わけのわかんない曲だなー」と思っていました(笑)
ただ、実際に楽譜を見て、弾いてみて、合奏してみると全然違って感じました。古典やロマン派では感じられない緊張感や高揚感、音のうねりみたいなものを感じられる素晴らしい曲でした!!好き嫌いは別として、後世に残る素晴らしい作品だと感じました。
春の暖かさや優雅さ、落ち着いた雰囲気の今までの楽曲と違い、春の嵐や期待と不安が入り混じる焦燥感を表すような音楽が特徴です。特に、第1部の「2.春のきざし」、「3.誘拐」、「8.大地の踊り」は激しい曲調で今までにない「春」を感じさせてくれます。
好き嫌いが大きく分かれる現代音楽、一度聴いてみてはいかがでしょうか。下の動画は「2.春のきざし」から再生となっています。
まとめ
様々な形で表現された「春」を楽しんでいただけましたでしょうか。不安もあるけど暖かな日差しに気分が高揚する、そんな感じをクラシック音楽からも味わっていただければ幸いです。
コメント