バルトーク《ピアノ協奏曲第2番》|超絶技巧の恐怖と快感

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クラシック音楽の世界には、「これ本当に人間が演奏するの?」と疑いたくなるような曲がいくつか存在します。その中でも、特にピアニストたちを震え上がらせる曲のひとつが、今回紹介するバルトークの《ピアノ協奏曲第2番》。

この曲は、とにかく難しい。一度聴いただけでも「え、いま何が起きたの?」と目を丸くし、演奏する側は「なぜ私はこの曲を選んでしまったのか…」と楽譜を見て後悔する、そんな恐ろしくも美しい名作なんです。

でも、怖いもの見たさじゃないですが、その超絶技巧の嵐をくぐり抜けたときの快感は、弾く人にも聴く人にも忘れられないものになる。それこそが、この曲の最大の魅力。今回はそんな《ピアノ協奏曲第2番》の魅力を、クラシックファンのみなさんにわかりやすくご紹介します。

バルトークってどんな人?

まずは作曲者バルトーク・ベーラについて、ざっくりご紹介しましょう。ハンガリー生まれのバルトークは、20世紀前半のクラシック音楽を代表する作曲家のひとり。

クラシック音楽と聞くと、モーツァルトやベートーヴェンのような“古典”のイメージが強いですが、バルトークはもっと時代が下って、民族音楽をもとにした独自の作風を持つ現代寄りの作曲家です。

実は彼、作曲家であると同時に、民族音楽研究家でもありました。当時のハンガリーやルーマニアの村々を、自ら蓄音機を担いで歩き回り、現地の歌や踊りの音楽を録音して記録。その膨大な民族音楽の要素が、彼の作品のあちこちに散りばめられています。

そして何より、バルトークはピアノの名手でもありました。この《ピアノ協奏曲第2番》も、そんな彼自身の超絶技巧がふんだんに詰め込まれた、ピアノ協奏曲の中でも屈指の難曲なのです。

ピアノ協奏曲第2番の基本情報

では、その《ピアノ協奏曲第2番》について、基本データをご紹介します。

  • 作曲年:1930〜1931年
  • 初演:1933年 フランクフルト
  • 楽章構成:3楽章(速い・遅い・速い)

ひとことで言うと「民族音楽のリズム×現代音楽の複雑さ×超絶技巧」の三拍子が揃った協奏曲。3楽章構成というのはクラシック協奏曲の王道ですが、中身はまったく王道じゃありません。

左右の手が別の調性(キー)で演奏する箇所や、異なるリズムがぶつかり合うポリリズムなど、バルトークならではの仕掛けが満載。さらに、オーケストラの打楽器もガンガン暴れ回るので、協奏曲というより“総力戦”のような演奏になるのが、この曲の魅力でもあり恐ろしさでもあります。

この曲の“超絶技巧ポイント”

では、どれほど難しいのか、いくつかポイントを挙げてみましょう。

左右の手が違う調性でぶつかる!
通常、ピアノの両手は同じ調性で弾きますが、この曲では右手と左手がまったく違うキーで演奏。不協和音のようにぶつかるのに、聴いてみると不思議と魅力的。弾いてる方は頭と指がこんがらがります。

オーケストラも暴れまくる
ピアノだけでなく、オーケストラ側も大変。管楽器も打楽器も、リズムがズレたり激しいフレーズが続いたり、演奏者泣かせの仕掛けが満載。特に打楽器の活躍ぶりも聴きどころです。

息つく暇のない1楽章の怒涛の展開
1楽章は、開始早々からピアノが休む間もなく弾き続け、オーケストラも激しいフレーズを連発。まるでジェットコースターのような展開で、演奏者も聴き手も息を呑む展開が続きます。

演奏者の声

この曲の難しさは、実際に弾いたピアニストのコメントを聞くとよくわかります。現代最高のピアニストのひとり、マルタ・アルゲリッチは「指よりも先に頭が疲れる」と語り、演奏中に何度も迷子になりそうになるとか。

イギリスのピアニスト、スティーヴン・オズボーンも「弾いてると現実と幻覚の境目が曖昧になる」とコメント。超絶技巧の連続に加え、複雑なリズムと調性の渦に巻き込まれ、ある種トランス状態に陥るそうです。

難しいのになぜ人気? ― 快感の正体

ここまで「とにかく難しい!」と散々書いてきたこの曲。じゃあなんでそんなに演奏されるの?どうして人気なの?と気になりますよね。

その理由はシンプルで、とんでもなく刺激的で、聴いているだけでゾクゾクする音楽だからなんです。

この曲、ひとことで言うと「音のジェットコースター」。最初から最後まで音のうねりと激しいリズムが次々と押し寄せてきて、気がついたらドキドキしながら曲にのめり込んでいる、そんな体験ができます。難しそうとか堅苦しいとか考える暇もなく、音楽の勢いに巻き込まれていく感覚。これがまず聴き手を惹きつける大きなポイントです。バッハ、ベートーヴェンのような古典だと、何となく次に来る感じが分かりますが、この曲は予想が出来ない事の連続でどんどん飲み込まれていきます。

そして、もうひとつ大きな理由が、民族音楽の持つ“原始的なパワー”。バルトークはハンガリーや東欧の民謡を集めていた人なので、この曲の中にもどこか懐かしいような、不思議と心が騒ぐリズムやメロディがたくさん出てきます。ただの難解なクラシックじゃなく、聴いてるうちに身体が反応してしまうような音楽になってるんです。

演奏する側も、「怖いけどクセになる」という感想をよく残していて、ものすごく集中して必死に弾いているうちに、演奏が終わった瞬間に一気に快感が押し寄せるんだとか。聴き手もその緊張と開放を一緒に体感できるので、演奏会では終わった瞬間、客席が思わず盛り上がることも。

つまりこの曲は、難しさを超えて、音楽の“生のエネルギー”を感じられる作品。クラシックをよく知らなくても、ちょっと試しに聴いてみると「なんかすごい…!」って心を揺さぶられる瞬間がきっとある。そんな不思議な魅力が、この曲が長年愛される理由なんです。

おすすめ音源・聴きどころ

もし「ちょっと聴いてみたい」という方がいれば、まずは中国出身のピアニスト「Yuja Wang(ユジャ・ワン」さん動画を載せます。情熱的な演奏が魅力の演奏家なので、この曲にとても合っていると思います。この方、衣装が毎回大胆なことでも有名ですが、この動画ではカメラワークとの相性で目のやり場に困ります(笑)

Yuja WANG plays BARTOK : Piano Concerto No 2

また、もう少し詳しく聞きたい方には以下の2つがおすすめ。

マルタ・アルゲリッチ(クラウディオ・アバド指揮)
超絶技巧と情熱のぶつかり合い。1楽章の疾走感と終楽章の畳み掛けるフィナーレは鳥肌もの。

ピエール=ロラン・エマール(ブーレーズ指揮)
複雑な曲なのに、構造が明快ですっきり聴ける名演。現代音楽寄りの耳にもおすすめ。

まとめ

今回取り上げた《第2番》は、“超絶技巧と民族音楽のエネルギーが炸裂する音のジェットコースター”。リズムも激しく、現代音楽ならではの鋭さもあって、まさに刺激的な1曲です。

実はバルトークは、生涯で3つのピアノ協奏曲を残しています。その中でも第2番と第3番は特に人気のある作品ですが、性格はまるで正反対。この違いを知っておくと、より面白く聴けるので、ちょっと紹介します。

《第3番》は、バルトーク晩年の作品で、奥さんへの贈り物として書かれたとても優しい曲。民族音楽の色合いは控えめで、穏やかな旋律と叙情的な雰囲気が魅力。誰でも聴きやすく、しみじみとした美しさが味わえる協奏曲です。

つまり、
第2番=恐怖と快感のスリリングな協奏曲
第3番=癒しと優しさに包まれる美しい協奏曲

と覚えておくと、クラシックの話題でもちょっと差がつくかもしれません!

もしこの2曲を聴き比べてみたら、「バルトークってこんなに表情の違う音楽を書けるんだ!」と驚くはず。クラシック初心者にもとてもおすすめのセットなので、ぜひ気軽に楽しんでみてください。

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